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Hokkaido University
Center for Human Nature,
Artificial Intelligence,
and Neuroscience

2022 CHAIN Summer School

2022年度 CHAINサマースクール:「心の進化」

日 時 2022年8月29日-9月2日
場 所 北海道大学 文系共同講義棟6番教室 (人文・社会科学総合教育研究棟 W202およびW201より変更)
言 語 日本語
対 象 北海道大学でCHAINを履修している大学院生

CHAINでは「意識・自己・社会性・合理性」といったテーマに対して哲学・神経科学・AI研究の融合した学際的教育プログラムを北大の大学院生に向けて提供しています。その中で夏と冬に開催されるサマースクール・ウインタースクールでは外部講師をお招きし、受講生に最先端の知見に触れ、学際的議論を行う場を提供しています。

 

2022年度のサマースクールはテーマを「心の進化」と題して、以下の先生方をお呼びして、講義・議論を行います。(敬称略)

  • 特別講演: 戸田山 和久 (名古屋大学 大学院情報学研究科 社会情報学専攻 情報哲学 教授)
  • 講義1,4: 松前 ひろみ (東海大学医学部 基礎医学系 分子生命科学 情報生物医学 助教)
  • 講義2,3: 鈴木 大地 (筑波大学 生命環境系 助教)

Seminar1

Lecturer

戸田山和久
Kazuhisa Todayama

TBA

Abstract:

講師紹介

戸田山 和久 (名古屋大学 大学院情報学研究科 社会情報学専攻 情報哲学 教授)
1958年、東京都生まれ。1989年、東京大学大学院人文科学研究科単位取得退学。専攻は科学哲学。現在、名古屋大学大学院情報学研究科教授。主な著書に「論理学をつくる」「科学的実在論を養護する」(名古屋大学出版会)、「知識の哲学」(産業図書)、「新版 論文の教室」「科学哲学の冒険」(NHKブックス)、「『科学的思考』のレッスン」(NHK出版新書)、「科学入門」(ちくま新書)、「教養の書」(筑摩書房)、「思考の教室」(NHK出版)など。(「恐怖の哲学」著者紹介より)

Seminar2

Lecturer

松前ひろみ
Hiromi Matsumae

講義1: 生物進化の基礎、講義4: 心が生み出した文化の進化

Abstract:

講義1: 生物進化の基礎
他の生物と比較した時にヒトらしさを定義するならば、どんな特徴が挙げられるだろうか?ヒトらしさにはさまざまな特徴があると思われるが、少なくとも文化や言語のような認知機能、つまり脳や心の特異性に異論がある人はいないだろう。しかし、ヒトの進化史のどの段階で現代のホモ・サピエンス(現生人類)と同じような認知機能を持った人類が生まれたかについては大きな謎となっている。例えば、絶滅した古人類であるネアンデルタール人と現生人類は数万年前まで共存していたが、2000年代までは主に形態や考古学的証拠(道具製作などの物質文化)から別種として考える研究者が多かった。ところがゲノム解析の技術が飛躍的に向上し、化石人骨のDNAを抽出して分析できるようになり、ネアンデルタール人と現生人類の間で交雑が起きていたことが過去10年の間に明らかになった。このことは、ネアンデルタール人と現生人類の間には、異種交雑が起きにくい遺伝学的・行動学的な違いが少なかった可能性を間接的に示唆している。どのような基準により同種・別種とするかは研究者や対象とする生物種の分類群によって大きく異なるものの、このようにDNAの分析はヒトに限らず地球上の多種多様な生物の進化の痕跡を明らかにしてくれる。そこで、心の進化を議論する前提として、DNAに基づく生物の進化の基本を解説する。

講義4: 心が生み出した文化の進化
本講義では、講義1で解説したDNAから分かる生物進化の基礎を用いて、DNAから分かる人類進化について俯瞰した後、心の進化の研究へ発展させるにはどうしたらよいかを考える。現状のDNA解析に基づく進化研究では、交雑のような系統関係は分かっても、解剖学・生理学的な特徴など形質を決める遺伝要因までもが簡単に分かるわけではない。それらのギャップを埋める1つの方法として、文化をヒトの認知機能が生み出した形質と捉えて文化の進化を分析するという方法について紹介する。特に私たちが2021年に発表した、ゲノムと言語(文法)と音楽の要素を同じデータ形式に落とし込んで解析する方法について解説する。講義1を踏まえて、生物進化と文化進化の違いについても議論する。

講師紹介

松前 ひろみ (東海大学医学部 基礎医学系 分子生命科学 情報生物医学 助教)
進化を情報科学で解析したいと考え、大学では情報工学を学び、大学院でバイオインフォマティクスを専攻。自然人類学・進化生物学の分野でポスドクを経験後、現職(東海大学医学部 助教)。当初、古代ゲノムを研究するために人類学に入ったが、言語や文化も情報学としてデータ解析できることに気付き、形質としての文化のデータ解析とゲノム解析を組み合わせ人類史を探究する研究に従事した。
現在ではポスドク時代に得た方法論をより一般化し、ゲノム解析と形質の定量解析を組み合わせる研究を主軸にしている。人類の進化を主たる対象にしつつも、深淵な進化の現象を幅広い視点で捉えたいため対象とする生物種は限定していない。

Seminar3

Lecturer

鈴木大地
Daichi Suzuki

講義2: 系統進化と相同性―進化の軌跡をたどる鍵、講義3: 脳・行動・心の進化

Abstract:

講義2: 系統進化と相同性―進化の軌跡をたどる鍵
「ヒトとはどのような存在であるのか」という問いに答えるアプローチのひとつは、ヒトと他の生物とを比較して、どのような形質が同じで、どのような形質が違うのかを見極めることである。そして生物は単一の共通祖先から枝分かれして多様化してきたので、近縁な生物であるほどおのずと共通点は多くなる。だがこのとき、何をもって「同じ」形質だとみなせるのだろうか。ヒトに肺があるように、カタツムリなどの陸貝にも肺があるが、これらは同じだと言えるだろうか。系統樹をもとに進化史をたどると、ヒトを含めた四足動物と陸貝はそれぞれ独立に肺を獲得したことがわかる。つまり、ともに四足動物であるヒトやカエルを比べたときの肺の「同じさ」と、ヒトとカタツムリの肺の「同じさ」は異なるのであり、それぞれ相同と収斂と呼ばれる。相同という概念は、遺伝子・細胞・器官・行動・文化など、さまざまな階層レベルで適用でき、進化史を理解するための鍵となる。そこで本講義ではまず、進化理論の歴史的変遷を踏まえつつ相同という概念を解説する。そして相同の階層性に関する知見を足がかりに、「同じであるとはどのようなことか」という哲学的な問題へと議論を深めていく。

講義3: 脳・行動・心の進化
私たちヒトを含めた脊椎動物では、中枢神経系(特に脳)が感覚情報の統合や運動の協調的制御、そして認知機能の中核を担っている。したがって脳の進化は、行動や心の進化を議論するうえで欠かせない要素である。そして脳・行動・心は、異なる階層レベルにありながら、密接に関わりあいながら進化してきただろう。本講義では、講義1で解説した相同の階層性という観点をもとに、脳・行動・心の進化について議論する。心や意識について考えるとき、とかく私たちは自分たち自身=ヒトを基準にして議論を進めがちである。しかし脳の基本構造は、ヒトを含めて脊椎動物全体で広く共通している。また感覚処理、歩行/遊泳などの行動、ひいては意思決定などに関わる神経回路も、脊椎動物の共通祖先の段階で獲得されたらしいことがわかってきた。こうした知見をもとに、あらゆる脊椎動物が意識をもつという主張が、ここ数年でにわかに盛り上がりを見せている。さらには、昆虫をはじめとする節足動物、そしてイカ・タコなどの頭足類も意識をもつのではないかとさえ議論されている。これらの動物たちが意識をもっていたとして、私たちは当然、これらの動物がどのように世界を主観的に経験しているのか直接的に知ることはできない。しかし私たちヒトどうしでも、互いの主観的経験を直接的に知ることは実際にはできないのである。本講義の末尾では、人間中心主義(人間を世界の中心として捉える態度)や擬人主義(他の動物の心をヒトの心になぞらえて理解しょうとする態度)から距離をとって、動物の意識の進化を理解する方策を検討したい。

講師紹介

鈴木 大地 (筑波大学 生命環境系 助教)
学部から博士後期課程まで、筑波大学にて、進化発生学的アプローチで脊椎動物の視覚系の進化を研究する。博士号取得後、神経生理学・神経行動学に軸足を移し、スウェーデンのカロリンスカ研究所にて視覚系の神経回路を研究。続いて日本の基礎生理学研究所にて、神経生理学とゲノム編集を組み合わせたアプローチを模索。2021年3月より筑波大学にて、進化生物学・神経科学・分子生物学、さらには科学哲学を組み合わせ、動物の形態や行動、ひいては意識の進化を研究している。