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Hokkaido University
Center for Human Nature,
Artificial Intelligence,
and Neuroscience

CHAIN ACADEMIC SEMINAR #14

幻視の現象学的特性の深層学習モデルによるモデル化

日時 3/26(金) 16:00-17:30
場所 Zoomオンラインセミナー(要登録)
言語 日本語
発表者 鈴木 啓介
所属 北海道大学 人間知・脳・AI研究教育センター

タイトル
「幻視の現象学的特性の深層学習モデルによるモデル化」

要旨
幻視(視覚性幻覚)とは、対応する感覚情報なしに生じる視覚経験のことである。幻視の神経学的な原因には、ドーパミン系の関わりといった大まかな類似点があるものの、その現象学的特性には幾つかの相違点が見られる。このような幻視の現象学的側面は、これまでは主観報告や、スケッチなどによる事例研究によって探求されてきたが、いまだに神経病理学的に十分な理解がされているわけではない。本発表では、深層畳み込みニューラルネットワーク(DCNN)と深層生成ネットワーク(DGN)を組み合わせたモデル(Nguyen et al. 2016)を用いることで、幻覚の現象学的特徴のシミュレーションを行った結果を紹介する。特にここでは、神経性・器質性の幻視体験(パーキンソン病、レヴィー小体性痴呆)と、幻覚剤(LSD, シロシビン、DMT)による幻視体験に焦点を当てて、それらの計算論的な病理を深層学習モデルによって再現することを試みた。我々のモデルは、神経性・器質性の幻視と、幻覚剤による幻視のそれぞれの現象学的特徴を、写実的な画像として可視化することができた。これは幻覚剤による幻視体験をDeep Dreamアルゴリズムで再現したHallucination Machine (Suzuki et al., 2017)を拡張したものといえる。現在、これらの可視化画像が、実際の幻視体験者の経験をどの程度再現しているかを調べるために、パーキンソン病、及びレヴィー小体性痴呆患者へのインタビューを行うと共に、幻覚剤を取得した経験のある被験者を対象としたオンラインサーベイを実施している。これらの知見は、生物脳の視覚野と類似した階層表現を持つ深層学習モデルが、正常な知覚現象のみならず、異常な知覚現象を支える神経機構の理解を深められる可能性を示唆している。今後は、この方法論を一般化した「計算論的現象学」として、他の種類の変性知覚現象にも適用する方向を考えている。