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Hokkaido University
Center for Human Nature,
Artificial Intelligence,
and Neuroscience

2022.9.7 Release

「人工知能:知の構成論的アプローチ」(2022/07/13)(飯塚博幸先生)講義レポート

川村樹(文学院人間科学専攻、CHAIN3期生)

「人間知序論Ⅰ」第5回目は、7月13日に「人工知能:知の構成論的アプローチ」というテーマで講義が行われました。担当は、CHAINのコアメンバーで情報科学研究院の飯塚博幸准教授です。

1. 人工知能の歴史と身体性

「人間のように柔軟で広範囲な問題に対処可能な人工知能は作れるのだろうか」という問いについて人工知能の歴史や研究などを紹介して頂きました。以下では、人工知能の歴史や研究について講義で紹介されたものについて概説します。

知能を人工的に作ろうという試みは少なくとも1950年代から行われており、時代や科学の発展に伴い様々な変化をしてきました。第1次、第2AIブームを通して研究者は優秀なアルゴリズムを開発するだけではなく、外界を能動的に理解するための身体性が人工知能を作るうえで重要であることを明らかにしました。これは、赤ちゃんが遠くにある何か(例:おもちゃ)を理解するために体をすり寄せ、おもちゃを触って、時には口に入れてそれが何であるのかを理解する過程に類似しています。

しかし、身体性が重要であるという流れはニューラルネットワークを用いたディープラーニングとビッグデータが組み合わされることによって一変しました(これが第3AIブームです)。ニューラルネットワークとは、神経細胞(ニューロン)を数理的にモデル化したアルゴリズムの1つであり、ニューラルネットワークを多層構造化したネットワークを用いた学習をディープラーニングといいます。ディープラーニングは、十分なデータ量があれば自動的にデータから特徴を抽出できるため、ビッグデータと組み合わさることで真価を発揮しました。これによって、AIにおいてもっとも解決が困難な課題の一つとされている「問題を解決する上で何が重要なデータであり、何が無視してもよいデータであるのかを判断できず、問題を解決することができない(例:爆弾と共に置かれたバッテリーのみを運び出すにあたり、目の前にある爆弾のデータと洞窟の壁の色データのどちらが重要かわからない)」というフレーム問題をある程度の解決することができるようになりました。また、最近の研究では、AIが画像認識において人間を上回る正答率を出したり、AIに好奇心という概念を取り入れることによってパフォーマンスが上がることが確認されたり、AIも錯視を見ることができたりと様々な発展を遂げていることが紹介されました。最後に、機械が本当の意味での意味を獲得するためには身体性と継続的な身体を含む自己の生成と維持が必要であるという飯塚先生の見解を全体に投げ、ディスカッションの時間となりました。

2. 授業の様子

人工知能について良く知らない学生に対しても講義内容が理解できるように工夫されており、様々な質問やディスカッションが行われる場となりました。また、人工知能の議論から発展して、そもそも人間とは何か、人間の知能はなぜ備わったのか、までも考えることができる講義になりました。

3. 人間の進化から考える人工知能

私は今まで人工知能を作ることは人間を作ることではなく、電卓のような便利な道具を作ることであるように思っていました。しかし、今回の講義で紹介された、人工知能には身体性の獲得が必要という結論や好奇心という概念を組み込むことでパフォーマンスが上がるという研究結果を聞くと、人工知能は便利な道具を作る作業ではなく人間を作る作業のように思えます。そうすると、便利な道具という壁を越えて知能を宿した機械を作るためには、そもそも人が知能をなぜ持てているのかについて考えてみると人工知能を作るうえで参考になるかもしれません。

講義の最後では、本当の意味での意味(知能)を獲得するためには、身体性と継続的な身体を含む自己の生成と維持が必要であると述べられていましたが本当にそうでしょうか。確かに、人間であるための構成要素を考えると、機械には存在しないような生存し続けるための機能(例:お腹がすいて食料を探す)が人間にはあります。しかし一方で、人の脳が進化したのは、集団の中での駆け引きの中で生き残らなければならないという複雑な環境が存在したためであるという学説(社会脳仮説)があります。これは、人間であるための必要最低限の構成要素ではありませんが、人間がこれほどまでに高度な知能を持つに至った理由の1つではあると思います。このように、人間が知能を持つに至った進化の過程についても理解を深めることが人工知能を作るうえでのブレイクスルーに繋がるかもしれないと思いました。