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Hokkaido University
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2022.7.20 Release

「神経科学研究概説2:観察と介入/ニューロテック」(2022/06/29)(吉田正俊先生)講義レポート

米村朱由(文学院人間科学専攻専攻,CHAIN教育プログラム3期生)

今回の講義では、人間知・脳・AI教育センターの特任准教授であり、システム神経生理学の研究をされている吉田正俊先生が、応用脳(神経)科学について具体例を交えながら紹介してくださいました。

1 応用脳(神経)科学とは

神経科学とは、「心的状態および行動」と「脳」の関係を明らかにすることを目指す学問です。そして、神経科学で得られた知見を他領域の問題を解決するために活用するのが応用脳(神経)科学です。
たとえばfMRI(機能的磁気共鳴イメージング)は、局所の脳血流を計測し、その増減から脳の活動をはかります。これにより、ある機能にどの脳部位がかかわっているのかを推測できます。得られた脳活動のデータから、被験者がなにを感じているのかを推定する技術の開発も進んでおり、これはデコーディングと呼ばれます。例えば、視覚野の活動から、被験者が見ている画像がどんなものか再構成することができます。
また、神経フィードバックは脳波を計測して、特定の脳活動を強化することで脳そのものを変えようという技術です。この神経フィードバックとデコーディングを組み合わせたDECNF(decoded neuro-feedback)は一定の成果をあげています。例えば脳活動をデコーディングでリアルタイムに計測し、特定の刺激に対する恐怖反応と類似したパターンの脳活動が起きたときに報酬を与えます。これにより本人が意識せずとも学習が行われ、その刺激への恐怖反応を低下することに成功しました。
脳を機械とつなぐBMI(Brain-machine interface)や、コンピュータとつなぐBCI(Brain-computer interface)についても研究が進んでいます。サルを使った実験では、訓練によって「念じる」だけで、サルがロボットアームを操作できるようになりました。
このような、神経科学(neuroscience)を応用した技術(technology)を総称して「ニューロテック」と呼びます。

2. 授業の様子

3回目ということもあり、皆授業に慣れてディスカッションが活発に行われました。学生からたくさんの質問が出ましたが、吉田先生が丁寧にわかりやすく答えてくださいました。皆で「ニューロテックとはそもそもなんなのか」、「ニューロテックを使ってこれから何ができるのか」を考えられる、とても実りの多い時間でした。

3. 応用脳(神経)科学の発展とそのリスク

「脳科学の応用はここまで進んでいるのか」と驚き、まるでSFのようだと思いました。私はものぐさなので、念じるだけで機械を動かせたり、メールを書いて送ったりできればいいのにとよく思っていました。それが実現に近づいているのだと思うととてもわくわくします。特にインパクトが強かったのはDECNFです。先述の通り、この技術を使えば本人が意識しなくてもある特定の刺激への恐怖反応を低減させられます。トラウマを抱えている人がDECNFを用いた治療を受ければ、精神的に楽になれるかもしれません。また、この技術が発達すれば、大学生の課題への苦手意識が治り積極的に取り組むようになるかもしれません。
このようにニューロテックの発展に夢が膨らむ一方で、もしも技術がさらに進化して人の信念まで変えられるようになったらと思うと恐ろしくもあります。例えば、DLPFC(背外側前頭前野)を政治的キャンペーンの情報を取り込むときに活性化させると、人々は取り込んだ政治的キャンペーンの情報によらず保守的になるのだそうです。
科学技術の発展が人の役に立つ一方で、どうやって技術の悪用を防ぐかについても考える必要があるのだと思います。これからもCHAINの授業でみんなと科学技術やそれにかかわる問題についてディスカッションできればと思います。