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2024.10.11 Release
CHAIN専任教員である吉田正俊教授の原著論文が出版されました。(Molecular Psychiatry誌 2025年4月号出版)
Miura, K., Yoshida, M., Morita, K. et al. Gaze behaviors during free viewing revealed differences in visual salience processing across four major psychiatric disorders: a mega-analysis study of 1012 individuals. Mol Psychiatry 30, 1594–1600 (2025). https://doi.org/10.1038/s41380-024-02773-5
統合失調症は視線の移動に影響を及ぼすことが知られています。さらに近年の吉田らの研究(2024)ではこれが視覚サリエンスの変容によるものであることを示唆するデータを報告しました。(Yoshida, M. et al. Sci Rep 14, 4606 (2024). CHAIN web siteでの報告はこちら: 「吉田正俊 特任准教授による視線とサリエンスについての論文が出版されました」 )
しかし吉田らの研究(2024)では、統合失調症患者と統制群の健常者のデータの比較のみを行っており、視覚サリエンスの変容が統合失調症に特異的なものかは明らかではありません。そこで本研究では、COCORO (認知ゲノム共同研究機構)で取得したデータを用いて、多施設、疾患横断的な解析を行いました。まず本研究では6研究施設で別々に取得されたデータを用いました。さらに1012名の参加者のデータ(健常者 550名と精神疾患患者462名、内訳は統合失調症 238名、双極性障害 41名、大うつ病性障害 50名、自閉スペクトラム症 133名)を用いたメガ解析を行いました。
その結果、視覚サリエンスの変容の効果は統合失調症では健常者と比べて有意に高いこと、そして方位性の視覚サリエンスの効果が最大であること、これらについて吉田らの研究(2024)を再現することを確認しました。さらに精神疾患間の比較では、統合失調症での効果が最大であり、双極性障害、大うつ病性障害、自閉スペクトラム症では健常者による統制群と有意な差がないことが明らかになりました。以上のことから本論文では、視覚サリエンスの変容がこれらの精神疾患における精神症状(psychosis)の強さと関連している可能性を議論しています。
本論文は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明(革新脳) 「双方向トランスレーショナルアプローチによる精神疾患の脳予測性障害機序に関する研究開発」(代表者: 東京大学 小池進介)の分担課題「視線計測に基づいた状況予測機能のマーモセット神経回路解析」(分担者: 北海道大学 吉田正俊)での活動の成果です。
図: フリービューイング中のサッケード位置での視覚サリエンスの平均値を5つの参加者グループ間で比較した。HC: 健常対照群、SZ: 統合失調症、BD: 双極性障害、MDD: 大うつ病性障害、ASD: 自閉スペクトラム症。Miura et al. 2025 図3Aより。(図のライセンス: CC-BY 4.0)