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Hokkaido University
Center for Human Nature,
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2024.2.27 Release

吉田正俊 特任准教授による視線とサリエンスについての論文が出版されました

CHAIN専任教員である吉田正俊特任准教授の原著論文が出版されました。

Yoshida, M., Miura, K., Fujimoto, M. et al. Visual salience is affected in participants with schizophrenia during free-viewing. Sci Rep 14, 4606 (2024). https://doi.org/10.1038/s41598-024-55359-0

統合失調症は視線の移動に影響を及ぼすことが知られています。たとえば、画像を自由に観ている状況(フリービューイング)での視線の計測を行うと、統合失調症の患者では統制群の被検者と比べて視線の移動距離や視線移動の回数が低下していることが以前の研究から知られています (たとえば森田らの論文(2017): doi: 10.1111/pcn.12460)。

本研究ではこのような眼球運動への影響が視覚的あるいは視覚認知的処理の変容から生じている可能性を検討しました。この目的のため、画像の視覚的顕著性(視覚サリエンス)が視線移動に及ぼす影響を検証しました。82名の患者と252名の健常者の自然画像や複雑画像を見たときの眼球運動を、静止画像のサリエンシーマップを用いて調べ、顕著性誘導眼球運動に対する低レベルの視覚的特徴の寄与を調べました。その結果、統合失調症患者の視線における方位顕著性の平均値は健常対照群のそれよりも高いことがわかりました。図に個別の被検者での例を示します。さらに解析を進めた結果、DKL色空間のL+Mチャンネルで定義される方位サリエンスが統合失調症で特異的に影響を受けることが明らかになりました。このことは大脳視覚経路における大細胞(magnocellular)視覚経路の変容を示唆しています。また、視覚的顕著性の計算段階を調べることで、統合失調症と健常対照の差が初期段階で現れることがわかりました。このことは統合失調症において初期の視覚処理における機能低下があることを示唆しています。以上の結果は、統合失調症において視覚的サリエンスが影響を受けていることを示唆しております。また本研究は、以前から精神症状の発症の説明として提案されている「異常サリエンス仮説」(Kapur 2003 10.1176/appi.ajp.160.1.13)におけるサリエンスの概念を視覚の領域に拡大したものと言えます。

本論文は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明(革新脳) 「双方向トランスレーショナルアプローチによる精神疾患の脳予測性障害機序に関する研究開発」(代表者: 東京大学 小池進介)の分担課題「視線計測に基づいた状況予測機能のマーモセット神経回路解析」(分担者: 北海道大学 吉田正俊)での活動の成果です。

図: 個別の被検者での例。画像番号8のサリエンシーマップ上に、8秒間での視線位置を表示した。数字はサッケードの順番を表す。HC: 健常対照群。SZ: 患者群。