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Hokkaido University
Center for Human Nature,
Artificial Intelligence,
and Neuroscience

CHAIN ACADEMIC SEMINAR #48

第48回CHAIN Seminar 藤井直敬「現実と介入」

日時 2024年11月28日(木)16:30-18:00
場所 北海道大学 人文・社会科学総合教育研究棟(W棟)W409室
言語 日本語
主催 人間知・脳・AI研究教育センター(CHAIN)
共催 学術変革領域研究A(23H04829)クオリア構造学:主観的意識体験を科学的客観性へと橋渡しする超分野融合領域の創成
開催方法 対面およびオンライン(オンラインのみ要登録)

今回のCHAINセミナーは藤井直敬先生にご登壇頂きます。
藤井先生は、神経科学者として理化学研究所で研究チームを率いて社会的脳機能の研究に従事し、『つながる脳』などのご著書で一般にも広く知られるようになりました。その後株式会社ハコスコを創業し、VRを中心とした事業でも注目を集める存在となりました。近年は「現実科学レクチャーシリーズ」などを主催され、「現実とは何か?」という根源的な問いに人間とテクノロジーの融合した領域で取り組んでいらっしゃいます(ご著書『現実とは?』早川書房などを参照)。今回のCHAINセミナーでも、「テクノロジーによる現実への介入」をめぐって、人類社会の未来までを見据えた射程の広い議論を展開して頂く予定です。ぜひセミナーにご参加ください。

Seminar1

Lecturer

藤井直敬
Naotaka FUJII

現実と介入

Abstract:

現実とはなにかについて私達が普段考えることは殆ど無い。それはあまりに自明であり、考える必要が無いからだ。わたしたちが自明だと思うことは、実は単に発達過程で獲得した生存に必要な最適化された認知処理の結果でしかない。
たとえば、道を歩くときに地面に穴があいていないか探りながら歩く人はいない。それは視覚的に地面が見えれば確実に地面は存在していて、その視覚的認知の結果を疑う必要がないからだ。つまり「現実」は裏切らないし、それゆえ経験上疑う必要の無いものについては、意識的な処理を行っていない。そのような無意識的な処理は、生活全般に及んでいる。当然ながら、学習の結果構築される脳内認知の仕組みはすべての人で異なっており、それゆえすべての人の現実の認知は異なっている。
しかし昨今の様々なテクノロジーの進歩によって、疑うことのないわたしたちの現実を疑う必要が出てきている。たとえば、XR技術を用いると、眼の前の人が本当に存在するかどうかが分からなくなるし、AIを用いることでその人が本当の人なのかAIによって操作されている人なのかの区別がつかなくなる。また、ブレイン・マシン・インターフェイスを用いると、気が付かない形で認知機能に直接介入することが可能になる。
そのようなテクノロジーによる現実への介入が、これまでの物理現実に限られた現実感とは異なる新しい現実を作っている。介入されていることがわからないのがこれらの技術の特徴で、わたしたちの認知機能の隙間にすっと入り込んで、認知が操作され行動に影響を受けることになる。それらの技術の倫理的な良し悪しはあるものの、現実介入技術は人類社会にこれまでとは異なる新しい可能性を拓く手段となりうるだろう。

講師紹介

デジタルハリウッド大学大学院 卓越教授/学長補佐
株式会社ハコスコ 代表取締役社長
東京大学先端研稲見研究室 客員研究員

東北大学医学部卒、眼科医、東北大学医学部大学院にて博士課程終了、医学博士。98年よりMIT Ann Graybiel labでポスドク。2004年に帰国し、理化学研究所脳科学総合研究センターで副チームリーダーを経て、2008年より適応知性研究チームのチームリーダー。社会的脳機能の研究を行う。2014年に株式会社ハコスコを創業、現在取締役CTO。2018年よりデジタルハリウッド大学大学院教授。

【著書】
『予想脳』(岩波出版)
『つながる脳』(NTT出版 毎日出版文化賞受賞)
『ソーシャルブレインズ入門』(講談社)
『拡張する脳』(新潮社)
『現実とは? 脳と意識とテクノロジーの未来』(早川書房)